実地指導

はじめて実地指導の通知がきたら読む記事

はじめに

もしも、今日実地指導の通知が来たらどうしますか?

「実地指導は「対策」するものではありません。「チェック」してもらうものです。正しく運営できていれば、不安がる必要はありません。」という記述を見かけます。

管理者・指導員時代には「いやいや、こっちは何が正しいのかがそもそもわかんねーんだよ!」とつっこみながら読んでいました。

細かく書かれたサイトもありますが、本質的に抑えるべき点が書かれていないため、かえって不安が募るばかりでした。

現在は障害福祉事業専門の行政書士として、実際に実地指導の立ち合い・交渉まで行うようになったため、行政官がどのようなことを気にして、どういった観点からチェックをするのか、多少なりとも見えてきました。

本稿では実地指導に備えて抑えるべき点を、事例を交えながら解説していきます。

 

 

 

ウェブ上で思うような情報がなかなか見つからない理由

危機感をもって、インターネットで情報収集しても、なかなか有益な情報は見つかりません。

なぜならどのサイトも、制度解説そのものに留まっているから」です。

厚生労働省が掲載する、実地指導の流れそのものを解説しているため、読んでも結局「で、何をすればいいの?」となります。

一見詳しそうな解説サイトであっても、各県監査指導室が公表する資料ほぼそのままだったりします。

 

最も確実な実地指導対策法とは

担当者を決め、行政官が実際に使用する資料をもとに、定期的に自主点検することです。

管轄地域の自主点検票事業者ハンドブック、役所手引き、集団指導書類」をご用意ください。

開業時から上記書類をもとに事業運営に取り組めたらベストです。

以下、ポイントを説明していきます。

 

ポイント1:一番多い勘違いとは

「監査≠実地指導」です。

監査は、虚偽申請・運営違反が濃厚な場合に行われます。

実地指導は運営の適正化が目的なため、きちんと運営できていれば、和やかに終わることもあります。

  • 実地指導 ⇒ 運営の適正化が目的。処分することが目的ではない。
  • 監査 ⇒ 虚偽の書類作成、基準違反の運営をしている可能性があると判断された場合に、実施される。虚偽の疑いが強い場合は、実地指導から即日で切り替わる可能性もある。

 

ポイント2:ごまかしは“バレている”

行政官から「事業所さんが何をどうごまかしているかは、だいたい分かりますから。吉川さんからも、事業者さんにそうお伝えください」と言われたこともあります。

ヘタなごまかしは、通用しないと思ってください。

特に監査に切り替わった場合、職員や利用者、保護者への聞き取り、細かな書類チェックまで行われるため、虚偽報告はバレます。

 

ポイント3:行政官への対応について

監査官によっては、わざと事業者様を煽るような接し方をすることもあります。

売られた喧嘩を買っても良いことはないので、感情的にならず淡々と指示に従いましょう。

「茶菓子は出したほうが良いですか?」と質問されることもありますが、そこはお任せします。

 

ポイント4:整理整頓=監査官からの印象も良くなる

書類がきちんと整備されているだけで、好意的に対応いただける可能性が高まります。

そのうえで、運営・許可基準を理解しようと努めている姿勢が伝われば、言うことはありません。

監査官の方々も忙しく、あちこちを回っています。

ぐちゃぐちゃの書類でチェックしなければならないと、誤認定による返金処分の可能性が高まります。

「見やすくしたら、運営違反があったときにバレてしまいそうですが…」という声をたまにいただきます。

断言します。検査をかく乱しても良いことはありません。この点のみ抑えてください。

 

ポイント5:お隣の施設は、当てになるようでならない可能性あり

「運営で分からないことがあったときは、近くの事業所に教えてもらっています」というケースをよく耳にします。

聞き先がベテランで信用のある事業者様であれば安心ですが、そうでない場合は要注意です。

1つの判断基準として、あなた自身の発する言葉に着目してみてください。

「運営で分からないことがあったときは、近くの事業者様に教えてもらってますが“よく分からなくて…”

こういう言葉じりが着く場合は、黄色信号だと思ってください。我流事業所様に聞いている可能性が高いです。

きちんとした事業所様に根拠づけて教えてもらっているのであれば、このような言葉は出てこないです。

実地指導の通知がきたら優先的に抑えるべきポイント

根本的なチェックポイント

以下の点を抑えられているかどうかの視点で、自事業を一度チェックしてみてください。

  • 適正な人員配置か(必要な人員基準数を満たせているか)
  • 雇用関係の書類は揃っているか
  • 計画書は適正な流れで作られているか
  • 算定している加算は、条件にそって運用されているか
  • 日報、会議録において不自然な点はないか
  • 事故、災害、虐待がないよう対策はとられているか

 

優先順位をつけるなら

ヒト、カネ関係の書類で指導を受けるケースが大半です。

経営者様、責任者様視点で優先順位をつけるとこうなります。

  1. シフト表、雇用関係書類(勤務実績の記録)
  2. 給付金、加算関係の書類(個別支援計画書、加算関係)
  3. 運営関係書類(日報、安全管理)

 

優先順位1.シフト表の整備

常勤職員、非常勤職員、資格者、非資格者が入り乱れた表記になっている、勤務時間数が書かれておらず△や◎などで表記されている場合、誤認定に繋がる可能性が高まります。

以下の点による指導が多いです

・毎月ごとの人員基準を満たせていない(資格者、人員基準、加算条件)
・加算の算定条件を満たすだけの職員を配置できていない
・実務経験証明書、資格証、雇用契約書、履歴書等を整備していない

 

優先順位2.給付金、加算関係の書類

誤認定による返金処分を受けないためにも、以下の書類について記録漏れ、誤り状がないかチェックしてください。

  • 給付金関係の書類(国保連請求書、明細書、サービス実績記録表)
  • 加算関係の記録書類(加算届の控え、欠席時対応加算、送迎記録 等)
  • 個別支援計画と一連の書類(アセスメント、計画書、モニタリング、原案および会議録等)※重要

 

以下の点による指導が多いです

・サビ管・児発管のもとアセスメント~計画~モニタリング記録がされていない
・加算条件を満たせていない
・加算条件を満たしていることを書類上で確認できない

 

優先順位3.運営書類のチェック

経営者様的には①、②の書類から優先的にチェックすることが望ましいです。

ただし安全かつ適正な事業運営をするためには、以下の書類を整備することも忘れてはなりません。

特に事故・トラブル対策関係の書類は、開業前からきちんと準備をしておき、日頃から有事に備えて訓練・情報共有しましょう。

  • ヒヤリハット、事故・身体拘束記録、事故報告
  • 非常災害、緊急時対応マニュアル
  • 利用予約表(定員規定の遵守)
  • 業務日報、支援記録(運営書類の補足)
  • 保護者関係の請求書類、代理受領通知、領収書(お金のやりとり)
  • 申請書類、加算届 等

 

以下の点による指導が多いです

・グレーゾーンにかかる事項において、日報、支援記録をしていないことで、適切な運営基準を遵守していることを説明できず、返金処分を受ける
・実費サービスの根拠を明確にすること
・定員超過の状況を解消すること / 解消策を報告すること

 

平時1:日頃から抑えておくべきポイント

「明日実地指導に入られても問題ない状態を目指すこと」です。

人員基準はあとから改変できないため、毎月ごとに人員基準をクリアできるか / できたかをチェックすることを定期作業として組み込むことが重要です。

有料の請求ソフトなどでは、この点のチェック機能があったりします。

 

平時2:事業所内での定期的研修を行う

管理者様だけで全ての作業をこなすことは極めて難しいです。

事業所内研修やミーティングをとおして、運営基準を守る意味や、各書類が存在する理由を共有してください。

事業所内での実施が難しい場合は、外部講師に依頼して、慣れてきたら自社内で運用するなどの方法が考えられます。

 

平時3:返金事案が見つかった場合は…

過誤申し立て手続きによって、受け取り過ぎていた分のお金を、各市町村に返金します。

基本的には、次月の入金額から天引きする形で引かれることが一般的です。

一括で全額返金しかないのか?と勘違いされる方もいますが、返金期間・方法は各市町村と協議することもできます。

事業所が潰れて困るのは利用者様とそのご家族である点を、役所の方も気にかけております。

 

基準に違反した運営を行うデメリット

処分が公表されると地域の利用者、保護者、関係機関からの信頼を大きく失い、撤退を余技なくされる恐れがあります。

利用者様も、新しい施設に移転せざるをえなくなりますが、環境の変化に慣れるまでに時間がかかる傾向にありますし、地域が定員いっぱいの事業所ばかりの場合、すぐに受け入れしてくれるとも限りません。

障害福祉事業は、在籍スタッフも地域住民であるケースが大半なため、潰れた事業所で働いていたとなると、近所の人から指をさされて生活することになりかねません。

(勤務時代、「もしこの放デイが潰れても、吉川さんはご近所さんいないからいいですよねー」と冗談混じりで言われたことがありますが、半分本気だったと思います)

返金や新規利用者の受入れ停止などの実害はもちろんですが、上記したような社会的損害があることも忘れてはなりません。

 

実際の処分事例

「虚偽申請」「不正受給」「虚偽報告」。

全ての要素を満たすと、指定取消を受ける可能性が高まります。

発覚経路として多いのは「実地指導」「関係機関・事業所 / スタッフによるリーク」です。

くれぐれも「うちはここまでのことはしてないから大丈夫」と思わないでください。

後から基準違反が発覚して、引くに引けなくなった結果の虚偽報告となれば、どこの事業所でも起こり得る話だからです。

 

指定取り消し①放デイ・児童発達支援多機能型

不正受給額:700万円 / 加算300万円  返金額:1,000万円

虚偽申請+運営書類改ざんパターンです。

申請時に資格者に辞退され、物件契約した手前、あとに引けなかったのかもしれません。

  1. 指定申請の時点で、虚偽の人員配置を組んでいた
  2. サービスを提供していないにも関わらず、給付金を受領した
  3. 個別支援計画書を作成していないにも関わらず、減算をせず不正受給した
  4. 児発管がいないにも関わらず、いるものとして報告した
  5. 実地指導、検査の際に虚偽の答弁をした 等

 

指定取り消し②(就労継続支援A型)

不正受給額:400万円 / 加算120万円  返金額:520万円

架空請求事案(受入れ実態なしでの意図的な給付金請求)は、取り消し事案だと思ってください。

ただし、施設外支援(実習)は、必ず事前に運用ルールを把握したうえで実施しなければ、本件のような架空請求とみなされる可能性があります。

  1. 長期休暇期間中に、実習利用したものとして架空請求を行った
  2. 生活支援員について、人員配置に関する虚偽の変更届を行った
  3. 人員基準を満たしたものとして、勤務表を作成した
  4. サービスを提供していないにも関わらず、利用者に給与を支払い、給付金を得ていた

 

指定取り消し③放課後等デイサービス

不正受給額:1,600万円 / 加算600万円  返金額:2,200万円

虚偽申請+児発管不在+不正受給。

1,600万円に上乗せ600万円で、2,200万円の返金処分になったケースです。

これも開業前に児発管に辞退されたまま、開業後も確保できず時間が過ぎたパターンだと考えられます。

  1. 児発管がいない状態で、虚偽申請を行った
  2. 個別支援計画書を作成していなかった / 保護者の同意をもらわずに支援していた
  3. 実地指導において、虚偽報告を行った
  4. 無資格者が作成した計画書でサービス提供を行って、給付金の不正受給を行った

 

新規利用者の受入れ停止①(放課後等デイサービス)

不正受給額:300万円 / 加算120万円  返金額:420万円

6ヵ月間の受入れ停止処分。

人員基準違反+虚偽の役員勤務による加算算定。

取消事案にならなかったのは、役員が出勤していることを、書面で証明しきれなかったためだと考えられますが、処分としては甘めです。

  1. 保育士または児童指導員を、必要な人数だけ配置できていなかった
  2. 人員欠如減算をかけずに請求を行った
  3. 指導員加配加算の要件を満たしていないにも関わらず、請求を行った
  4. 実地指導の際、勤務実態のない法人役員を、指導員として勤務表を作成して県に提出した

処分内容:6ヵ月間の新規利用者受け入れ停止

 

新規利用者受け入れ停止②(障害児相談支援)

不正受給額:9万円 / 加算3万円  返金額:12万円

1ヶ月だけの処分で、返金額自体も少額ですが、地域や他事業所様からの信頼は大きく損ないます。

本事業者様は、今はしっかりとした体制のもと運営されているようです。

  1. 障害児支援利用計画を作成していないにも関わらず、相談支援給付費を受け取った

処分内容:1ヵ月間の新規利用者に対するサービス提供停止

 

新規利用者受け入れ停止③就労継続支援B型

不正受給額:300万円 / 加算120万円  返金額:420万円

6ヵ月間の受入れ停止処分。

虚偽報告をしなかったため、指定取消にまではいたらなかったケースです。

  1. サービス管理責任者の不在
  2. 常勤であるべき生活支援員もしくは職業指導員の不在
  3. 虚偽の指定申請(サービス管理責任者の不在)
  4. サビ管・支援員の不在にも関わらず、減算なく報酬請求を行った

処分内容:6ヵ月間の新規利用者の受入れ停止

 

弊所の取り組み事例

事前に気づけたおかげで防げたこともあれば、振り返ってみた結果「これはセーフですよね?」と、監査官の判断をひっくり返せたケースなど様々です。

監査室からのお呼びだしに同行したこともあります。

事業所様や担当官方のお立場もあるため、さらっと紹介するにとどめます。

①児童指導員等加配加算

児童指導員等加配加算について、人員基準を違反しているとして、返金処分を受けたが、あらためてシフト表を洗い出してみた結果、誤認定だと判明した。

⇒シフト表が初見で分かりにくいと、誤認定による返金処分を受ける可能性が高まります。

加配条件を下げたうえで事業運営しなければいけない事態および返金処分を回避し、算定できる加算を全て算定した状態で運営できるようになりました。

 

②施設外就労

申請時に申請した事業内容と、実際に取り組んでいた事業内容に大きな違いがあったため、虚偽申請の疑いが生じた。

⇒開業支援業者様からの引き継ぎ案件。事業所内活動と施設外就労の違いを明確にし、運営のための注意点を、何かあれば都度行政庁や役所に確認したうえで活動に取り組む体制にしました。

本件は実地指導の中途終了や後日の監査呼び出しなど、冷や汗をかく事態が続きました。

 

③児発管欠如の回避

法改定により、児発管に3年の障害、もしくは児童福祉の実務経験が必要であることまで情報として拾い切れていなかった。

⇒幸いにも危機意識高い事業所様だったので、他に正規資格者様を児発管として再配置いたしました。早急に変更届を提出したことで、児発管欠如減算を回避できました。

別件の書類作成で依頼を頂いていた事業所様でしたが、ヒアリングをとおしている中で「あれっ…」となり、本事案が発覚しました。

 

④不要な過誤申立ての回避

減算をかける必要のない期間分まで減算をかけようとしていたため、減算すべき期間とそうでない期間を明確にしたうえで、返金方法について市と協議を行った

⇒市は基本的には事業所様の報告をそのまま受け取る傾向にあるため、給付金を返し過ぎてしまう分には、そのまま受領するため、返金額は可能な限り明確にしてください。

書類の洗い出しは結構骨の折れる作業なので、日頃からルールを理解して書面整備することが大切です。

 

⑤定員遵守の範囲

実地指導の結果「定員遵守」を過剰に意識してしまったため、稼働率8~9割となり、苦しい事業運営を強いられていた。

⇒どこまでの範囲認められるのかを行政官に確認、記録を残すことで、受け入れ範囲を再度明確にしました。

 

“いちばんヤバい”事業所とは

管理者、代表一丸となって現場支援に入り、「なんとなく」基準を理解しているだけのスタッフに法令遵守を一任しているケースです。

最低限の情報収集する余裕もないくらい、現場が忙しい事業所様です。

心当たりがあれば「ちゃんと実地指導対策してますか?」とお声がけして頂けると幸いです。

本稿を理解して、実践できるレベルの事業者様であれば、実地指導に入られてもさほど大きな問題はないかと存じます。

(一見問題なさそうな事業者様でも、ヒアリングを進めていくと「実は…」という点や「あれっ、ここができていないのはまずくないですか?」という点が出てくることもあるため、その点のみご注意ください。)

 

行政書士の提供価値とは

「本当にこれで大丈夫なのか?」ともやもやした状態を解消して、安心して事業運営できる体制を作ることにあります。

そのためには

  1. グレーな問題(アウトともセーフともとれない)を、根拠に基づいて白だと表現できること
  2. 黒なら黒で「どのようにしてこの問題を片付けていくか?」を事業者様とともに考えられること
  3. 実務までイメージしながら運営・許可基準にもとづくご提案をできること

これらのスキルが要求されます。

手続き代行だけであれば、安価な事務所様への依頼で十分です。

事業運営でお困りごとがあるならば、許可・運営基準・他社事例まで抑えている事務所に頼むことをお薦めします。

まとめ

実地指導に備えるためも最も確実な方法は、許可・運営基準を理解して、日頃から適正な運営を心掛けることです。

人欠絡みでのトラブルが大半であるため「働きやすい施設作り」のために、何が必要か?を改めて考えてみるといいかもしれません。

また、運営ルールについて不安な点があれば、必ずハンドブックや行政、専門家への確認をとおして解消してください。

「行政官が言ってる言葉の意味が分からない」では、どうしようもありませんが、

本当にどうしようもない場合や、不安で仕方ない場合は、弊所にご相談ください。

可能な限りお力添えいたします。

 

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