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グループホームにおける夜勤勤務の労務管理――裁判事例から見える実務上の注意点

障害者グループホームの運営において、夜勤勤務の位置づけや労務管理が問題となるケースが少なくありません。このたび、夜勤中の時間が労働時間に該当するかどうかをめぐる裁判において、支援員側の主張を認める判決が出されました。以下に概要と、事業者として留意すべき点を整理します。

判決の概要

令和6年7月4日に東京高等裁判所で出された本判決では、ある生活支援員が「泊まり込みの夜勤時間も労働時間にあたる」として残業代を求めた訴訟において、裁判所が支援員の主張を認め、事業者に対し約330万円の残業代の支払いを命じました。

この支援員は夜間中も複数回にわたり入居者の対応を行っており、「夜間も常に気を張っていなければならない状況であった」と認定されています。裁判所は、こうした夜間の待機時間も「使用者の指揮命令下にあった」と判断し、労働時間に該当すると結論づけました。

また、残業代の計算に際しては、夜勤手当だけでなく、基本給や各種手当を含めた時給で算出すべきとされ、地裁判断よりも大幅な増額が認められました。

この判決から学べる実務上のポイント

この裁判を受けて、グループホームを運営する事業者としては、以下の点について見直しと対応を検討する必要があります。

1.夜勤の勤務実態を把握する

表面的には「待機」や「休憩」と位置付けていても、実際には頻繁に入居者対応が発生しているケースでは、労働時間と見なされる可能性があります。
支援員が夜間中、自由に休憩・離席できる状態かどうか、改めて現場の実態を確認することが重要です。

2.手当の支給だけで済ませていないか

夜勤手当や宿直手当を支給しているからといって、実労働時間に対する賃金支払いが免除されるわけではありません。
実際に業務が発生している場合には、時間外労働として残業代を支払う体制が必要です。

3.勤怠管理の仕組みを見直す

タイムカード、業務日報、引継表などによって、夜勤中の対応内容や勤務実態を記録する仕組みを整えることが求められます。
「何かあれば対応する」体制が常時求められているならば、その時間も労働時間としての取り扱いを検討する必要があります。

4.賃金計算の根拠を明確にする

残業代を算出する際の時給の基礎となる金額について、社内で明文化し共有しておくことが望まれます。
本判決では、基本給のみならず、支給している各種手当も含めた額を基礎に計算すべきと判断されています。

5.訴訟や行政指導への備え

今後、労働時間の扱いや賃金の支払いをめぐって監査や是正勧告、民事訴訟に発展するリスクも考えられます。
不安な点がある場合は、社会保険労務士や弁護士といった労務管理に詳しい専門家に早めに相談することが望ましいでしょう。

おわりに

夜勤業務は、利用者支援の要であると同時に、支援員の負担や法的リスクが大きくなりがちな領域です。
これまで問題なく運用してきた体制でも、実態に合っていない部分があれば見直しが求められます。
事業者としては、従業員の勤務実態に即した公平かつ適正な労務管理体制を整えていくことが、今後ますます重要になります。

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