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就労移行支援事業所あるく
【住所】愛知県名古屋市中区栄2-2-17 名古屋情報センタービル2F
川名、大府、鈴鹿 他
【概要】2012年4月「あるく伏見」開業。2013年5月より「あるく川名」開業。
pcでの文書作成、ビジネスマナー、ハローワーク、企業見学・実習などをとおして、障害者の一般企業就職へ向けた支援を行う。
運営法人:カタリスト株式会社。チラシやパンフレットを活用したプロモーションツール制作、飲食事業、WEB制作、コンサルティングなど幅広い事業を手掛け、「新しい社会を創っていく」ことをミッションとする。
インタビュー:代表取締役 松下敦士様
カタリスト株式会社代表取締役。愛知県出身。大手ハウスメーカーやケータイショップ運営会社、ITベンチャーなどを経て有限会社カタリストを設立、現在に至る。
一般就労が難しいにも関わらず、障害者としての支援も充分に行き届かない、発達障害をはじめとする障害をお持ちの方が多くいます。
彼らが一般企業に就職するための職業訓練事業所として「就労移行支援」の役割が期待されています。
愛知県内だけでなく鈴鹿市や大阪、東京でも多数事業展開をしている松下敦士様(以下、敬称略)にお話を伺いました。
就労移行支援事業での取り組みについて
ヨシカワ「早速ですが、御社の取り組みについて教えてください」
松下「主に発達障害など精神的な障害をもった利用者さんが一般企業に就職するためのサポートを行っています。
職業訓練をしたり、仕事を探すお手伝い、就職後の定着サポートをすることが、主なサービス内容です。」
ヨシカワ「障害を抱えたかたの就職活動と、職場定着のサポートを行うのですね。利用者さんの層としてはどういった方が多いのでしょうか」
松下氏「特に利用者さんの層を絞るようなことはしていません。ただ20代~30代の発達障がいなど精神の問題を抱えた方が多く、次に40代で、50代の方は比較的少ないように感じます。」
ヨシカワ「障害は、どのような方が多いですか?」
松下氏「引きこもりや自閉症、学習障害の方などはもちろんいますし、人ごみが苦手だったり、異性が極端に苦手だったり。人によって様々です。」
御社の特徴について
ヨシカワ「御社での活動において、大切にしていることを教えてください」
松下氏「楽しい仕事を自ら創る。という理念を大切にしています。利用者さんの就職をサポートするだけでなく、スタッフも働きやすい環境で、楽しく仕事が出来たら、と考えています。自分自身がやりたいと思える仕事に取り組むと自然と結果もついてきます。
そしてこの会社に集まる人たちが、この会社の進む方向を決めていくのではないかと思い、カタリスト(触媒)という会社名にしています。」
ヨシカワ「たしかに結果を出すためには仕事を楽しむことがすごく大切かもしれません。利用者さんは、事業所でどのような取り組みをするのでしょうか」
松下氏「弊社はいかに付加価値の高い仕事をやれるか、という点を大切にしており、
たとえばMACを使ってデザインの練習をしてもらったり、古本市の販売の企画を立てたり、チラシ作りをしたり・・クリエイティブな作業に取り組んでもらうことが多いです。
ただそういう仕事ばかりでもないので、清掃をしたり、軽作業なども、コミュニケーションや実際の仕事の疑似体験になりますので取り入れています。」
ヨシカワ「実際の仕事の疑似体験ができるのは、これから一般就労を目指す方たちにとって、とてもいい経験になりますね。
就労継続支援(障害者が実際に働く施設)」のほうでも、いかに付加価値の高い仕事に取り組んでもらうか、というポイントが重視されてきていますよね。
ちなみに、スタッフを雇う際に意識することはあるのでしょうか」
松下氏「できる限り一般企業での就労経験があるスタッフを雇うようにしています。
利用者さんの第一の目的は、一般企業への就職なので、一般企業での実務経験を大切にしていますね。案外、福祉業界をしらない人のほうが良い働きをしてくれることもあります。
就労移行支援においてはサービス管理責任者の方も、福祉での視点が強いと企業とのマッチングなどが難しいときもあります。
ヨシカワ「福祉業界と一般企業のビジネスの世界の両立ってなかなか難しそうですね。
あるく様には民間企業への就職をしたい方たちが集まるので、やっぱり民間企業で働くことのやりがい、大変さを分かっているスタッフさんがいるのは心強いですね」
開業に至ったきっかけ
ヨシカワ「弊所のブログを読んでいる方は、これから就労移行支援を開業しようと考えている方々になります。よろしければ開業に至ったきっかけを教えてください」
松下氏「理由は知人の薦めです。本業はカタリストとしてプロモーション制作なのですが、もう1つの収益軸を作りたいと考えていて。」
ヨシカワ「知人の薦めだったんですね・・!」
松下氏「最初はホントに何も分からない状態からのスタートでした。事業所の立ち上げ前から立ち上げ後までひたすらバタバタして。」
開業時に大変だったこと
松下氏「思っていた以上に人(利用者)が来なくて驚きました(笑)。ホントに人来なかったです。」
ヨシカワ「相談所に営業いったりしなかったのですか?」
松下「もちろんしましたよ。ただ当然こっちは全くの新規参入で何も分からない、経験もないので信用ゼロですよね。
放デイだったら、今は分からないですが、当時は開所すれば、何もしなくても利用者さんが集まったり…。
A型事業所もそうですよね。
みんな働きたくて施設に通う訳だから、最低賃金をもらえるA型事業所も、これといった営業活動をしなくても人が集まりやすい。
その点就労移行支援はあくまで「時間をかけて職業訓練をする場所」です。なにもしなければホントに人来ませんよ。」
松下氏「あとびっくりするくらいお金がすぐに消えていきます。利用者さんがいてもいなくても、運営基準上、スタッフを配置しなくてはなりませんよね。移行支援の場合スタート時、約6人配置しなければならないので、人件費もかさみがちです。
だから1000万円あっても安心だね、とは言えないです、正直。」
ヨシカワ「プレッシャーとかはなかったですか?」
松下氏「うちは幸い本業のほうが軌道に乗っていたのと、中期的に見て別の事業は必要だったので、ある程度のリスクはとるしかないと思って始めています。」
ヨシカワ「なるほど・・。一発逆転を狙ってやるにはリスキーかもしれませんね。
職業柄気になるのですが、書類面はどのように整備していったのですか」
松下氏「自分たちで、他事業所さんに聞きながら手さぐりで調べていました。行政書士さんにも色々調べて、動いてもらっていました。当時は結構事業所にも来てもらって、かなり色々と頑張ってくれましたよ。」
黒字転換したきっかけは
ヨシカワ「黒字転換したきっかけなどはありましたか?」
松下氏「マックを使ったデザイン制作ですね。利用者さんにマックを使って、簡単なデザインを教えていました。
たしか保健所だったと思うのですが、そのことが認知されていくにしたがって紹介が徐々に増え始めました。」
ヨシカワ「1日何人くらいきたら、黒字になりそうですか?」
松下氏「うちの場合は10名~12名くらいですね」
ヨシカワ「みんながみんな毎日くる訳ではないですよね。だから利用者数ベースでそのくらい来てもらおうとすると、それ以上の数だけ、契約者数を増やす必要がありそうですね」
松下氏「はい。」
営業活動とスタッフについて
ヨシカワ「きっとお話で聞く以上の大変さがあったことと思います。それでも今これだけ事業所を展開しておられるのですから、営業活動とかで苦労することはないのでは??」
松下氏「今でも営業活動はしっかりやっていますよ。むしろ一番力を入れるべきポイントだと思っています。
今、私はほぼ現場を離れているのですが、各事業所の現状を把握するために、クラウドシステムを使って業務日報を毎日書いてもらっています」
(実際に見せてもらいました。業務日報をアプリ上で共有できる仕組み)
ヨシカワ「毎日目を通しているのですか?」
松下氏「もちろん、毎日目をとおしています。どこでどんなことが起こったかや、営業活動をちゃんとできているか確認できるので。
サビ管、スタッフの方たちはすごく良いカリキュラムを作ってくれるのですが、どうしても作ることに熱中してしまうんですよね。
良いサービスを作っても、それを使う人がいなければどうしようもないですから。だから数年たった今でも、営業活動は続けていますし、スタッフにも口酸っぱく言わざるを得ないのです。
特に就労移行支援の場合、原則2年までしか利用者さんも通えないので、いつまでもあぐらかいている訳にはいかないですし。」
ヨシカワ「障害福祉事業だからといって、直接利用者さんを支援するだけが仕事内容ではない、ということでしょうか」
松下氏「そうですね。幸いうちの場合はスタッフも本当に利用者さん想いの方が多く、助かっています。ただ、それゆえマンツーマンでの支援になりがちなのです。」
「でもそれだと、本来やるべき業務がストップしてしまったり、利用者さんの自立のためにもならないので、このあたりのバランス感覚がすごく重要なのです。
だからホントは福祉業界って気の利く、頭の良い人達が活躍するべき業界だと感じています。」
ヨシカワ「利用者さんに良いサービスを提供するためのスキルはもちろん、法令遵守やそのための書面整備、営業活動、やらなければいけないことは確かに多岐に渡りますよね」
松下氏「今でも素晴らしい想いをもって取り組んでくれているスタッフさんはたくさんいるので、それにプラスして民間企業の感覚も大事になってくると考えています。」
開業を考えている方へのアドバイス
松下氏「とにかくびっくりするくらい早くお金がなくなります。ちゃんとビジネスモデル理解したうえでやらないとすぐに退場です。
最初はとにかく必死にやらなければならない。
だから中心となる人が率先して必死に動かないと誰もついてきてくれません。うちも立ち上げメンバーが必死にやっていることが相談所やスタッフに伝わって、そこからやっと芽が出ました。箱だけ立ち上げてあとは現場任せ、では芽が出ることはないでしょうね。」
松下氏「また、先ほどお話したように、福祉の業界はよくも悪くも独特で、のんびりしている空気感もあります。これが一般の社会だったらもう5倍は先に進んでいると思っています」
松下氏「だから、厳しい話も色々していましましたが、ある意味ではチャンスがまだまだ多く残されている業界だとも感じています。ちゃんと考えて、ちゃんと頑張ってくれる人にもっと取り組んでいって欲しいです。」
ヨシカワ「中心となる立ち上げメンバーが必死に頑張らなければいけないというのは、本当にそのとおりだと思います。そして自分自身まだまだチャンスは多く残っている業界だとも感じているので、これからより良い業界になっていくよう活動していきたいと考えます。」
本日はありがとうございました。
まとめ
お忙しい方だと伺っていたので30分で切り上げる予定だったのですが、1時間たっぷりお話を聞くことができました。
貴重なお時間を割いてくださり、本当に感謝いたします。
運転資金のくだりと、福祉業界とビジネス感覚の話が特に印象的でした。
放デイの業界でも営業活動について賛否分かれていますが、想いを持って優れたサービスを提供する「あるく」様のような事業所がもっと増えれば、より業界も良い方向に進むのではないでしょうか。
あるく、カタリスト様のウェブページはこちらから。