開業・運営ノウハウ

【身体拘束とは】身体拘束等未実施減算等のポイント

「身体拘束とは、どのようなものが当てはまるか分からず、不安なまま利用者に接しています」という相談を受けることがあります。

きちんと理解しないまま支援をすると、いざというときに適切な対応をとれず事故やケガの発生に繋がるリスクがあります。

 

身体拘束には、厚生労働省が定めた定義と所定の手続きがあります。

本項では、そのような身体拘束の定義と発生時に行うべきことについて説明してみました。

以下の事業なども対象となります。

  • 就労継続支援A型・B型
  • 共同生活援助(障害者グループホーム)
  • 放課後等デイサービス・児童発達支援等

 

何をやったら身体拘束にあたるのか?定義と記録法を解説

身体拘束とは

障がい者虐待防止法によって「正当な理由なく障がい者の身体を拘束すること」は障害者の権利擁護に対する侵害や身体的虐待にあたるとされています。

身体拘束の具体例

「どんなものが身体拘束にあたるか分からない」という方もいるかもしれません。

厚生労働省による虐待防止の手引きに定められている例は以下のとおりです。

  • 車イスや別途等に縛り付ける
  • 手指の機能を制限するために、ミトン型の手袋をつける
  • 行動を制限するために、つなぎ服を着せる
  • 支援者が自分の体で利用者を押さえつけて行動を制限する
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  • 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する 等

 

やむを得ず身体拘束を行う場合の3原則

原則禁止されている身体拘束ですが、

  1. 切迫性
  2. 非代替性
  3. 一時性

3つの条件を全て満たすときだけ行うことができます。

「緊急時にここまで考えられません!」と思うかもしれませんが、原則として知っているかどうかだけでも支援の質に違いが出てきます。

 

1.切迫性

利用者もしくは他者の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。

切迫性の判断は身体拘束を行うことによって本人の日常生活に与える悪影響を考えて、それでも身体拘束を行うことが必要だと判断できる場合

 

2.非代替性

身体拘束その他の行動制限を行う以外に方法がないこと。

まず身体拘束を行わずに支援する全ての可能性を検討して、本人保護の観点から他の方法がないかを複数の職員で確認する必要があります。

拘束についても、利用者本人の状態像等に応じて最も制限の少ない方法を選択すること。

 

一時性

身体拘束その他の行動制限が一時的であること。

一時性の判断は、本人の状態によって必要とされる最も短い拘束時間を想定します。

 

やむを得ず身体拘束を行うときの手続き

1.組織による決定と個別支援計画への記載がなされること

やむを得ない場合には、個別支援会議等において、組織として慎重に検討・決定する必要があります。

個別支援計画書への記載プロセスとして、管理者、サービス管理責任者、虐待防止責任者など、支援方針の決定権をもつスタッフの参加が大切です。

制度としては「身体拘束を行う際に個別支援計画に記載すること」とされていますが、そんな時間もないと思います。

利用者の状態像を鑑みて、

  • 身体拘束の方法
  • 必用な時間
  • なぜやむを得ないか
  • 身体拘束が必要になる状況の分析
  • 身体拘束を不要とするには

などの分析を行い、あらかじめ慎重な判断のうえ個別支援計画書に記載しておくことが望ましいです。

 

2.本人・家族への十分な説明をすること

身体拘束を行う場合には、随時利用者や家族に十分な説明をして、了解を得ておく必要があります。

実務的には、利用契約時や身体拘束がどうしても必要だと判断した際に今後の想定として同意書をもらっておくなどの方法が考えられます。

 

3.必用な事項の記録

身体拘束を行った場合には、

  • 状況
  • 時間
  • 利用者の心身状況
  • やむを得ないと判断した理由

などを、どんな様式でも構わないのでできるだけ詳しく記録しておきます。

この記録がなされていないと、障がい者総合支援法や児童福祉法の基準に違反し、減算扱いとなります。

 

【対象事業】

療養介護、生活介護、短期入所、施設入所支援、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、共同生活援助、児童発達支援、医療型児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援、居宅訪問型児童発達支援、福祉型障害児入所施設、医療型障害児入所施設 等

 

身体拘束廃止未実施減算とは

身体拘束等にかかる記録をしていない場合 5単位/日

事業所等において身体拘束が行われていた場合でなく、通所基準に定められる記録が行われない場合に、利用者全員について減算することになります。

 

身体拘束廃止未実施減算の適用フロー

もし身体拘束を行ったにも関わらず記録をしていなかった場合でかつ実地指導で指摘を受けた場合は、以下のような流れで減算の処理を行います。

  1. 身体拘束等を行ったものの、記録整備ができていなかった
  2. 記録整備ができなかったことに対する改善計画を都道府県知事に提出
  3. 身体拘束が発生した月から3カ月後に改善計画にもとづく改善状況を都道府県知事に報告
  4. 事実が生じた月の翌月から改善が認められた月について、利用者全員の報酬額を減算する

※事業者が記録作成指導に従わない場合には、指定取消を検討することになる

 

身体拘束廃止未実施減算による報酬減額のシミュレート

減算額のシミュレートは以下のとおりです。

金額としてはわずかかもしれないですが、身体拘束は障がい者の尊厳を著しく害するものであり、権利擁護の観点からみてもやはり望ましくはありません。

  • 月のべ利用回数 230回
  • 身体拘束等にかかる記録整備ができていなかった期間 3カ月
  • 減算額 5単位/回
  • 地域単価10円

230回×3カ月×5単位×10円=34,500円/月

 

障がい者虐待の事例

自分たちに虐待防止の自覚がなくとも、客観的に見れば虐待の例に当てはまっていた、ということは起こりえます。

介護福祉士が入所者を殴り骨折、施設は事故として処理

県警は、障害者支援施設に入所中の身体障害者の男性を殴り骨折させたとして、傷害の疑いで介護福祉士を逮捕した。男性は骨折等複数のけがを繰り返しており、日常的に虐待があった可能性もあるとみて調べている。

 

職員の暴行後利用者が死亡、施設長が上司に虚偽報告

障害児入所施設で、入所者が職員の暴行を受けた後に死亡した。また、当該施設の施設長
が2年前に起きた職員2人による暴行を把握したが、上司に「不適切な支援はなかった」と虚偽の報告をしていたことが分かった。
県は、当該施設の新規利用者の受入れを当分の間停止する行政処分と、施設長を施設運営
に関与させない体制整備の検討等を求める改善勧告を出した。
県によると、施設長は立ち入り検査時には「暴行の報告はなかった」と説明。しかし、そ
の後の調査に「報告があったことを思い出した。聞き取り調査したが虐待はなかった」と証言を覆した。さらに、詳しく事情を聴くと、施設長は「もう1つ報告があったことを思い出した」として、職員4人が虐待をしたとの報告があったと証言。このうち2人が暴行したと判断し、口頭注意したことを認めた。その後、施設長は上司に「不適切な支援はなかった」と事実と異なる報告をした。

厚生労働省「障がい者虐待防止の手引き」

 

身体拘束廃止未実施減算のまとめ

身体拘束の要件には

  • 切迫性
  • 非代替性
  • 一時性

3つの要件を満たす必要があります。

管理者やサービス管理責任者、現場責任者などが身体拘束、虐待発生の事実がないか監督するとともに、スタッフ一人ひとりの心がけとしても障がい者の権利擁護の意識をもち、日々の業務に取り組んでいきましょう。

 

参考資料

事業者ハンドブック2019(報酬編)p.674

厚生労働省(「障害者福祉施設等における
障害者虐待の防止と対応の手引き」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000211204.pdf#search=’%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E7%A6%8F%E7%A5%89+%E8%BA%AB%E4%BD%93%E6%8B%98%E6%9D%9F’

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