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障がい福祉事業における立地戦略と事業コンセプトの策定

「エリア分析はどのようにして決定したら良いですか?」というご相談が多いですので、具体的な決め方について記述します。

前置き

表題どおり、少なくとも1~4事業所ほどの規模の場合には統計分析をする必要はない、と弊所は考えています。

・統計調査不要説

このように考えたきっかけは、これまで関わってきた事業所様方です。

グループホーム、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、放課後等デイサービス、児童発達支援等、業種を問わず100%稼働※を実現している事業者様に関わってきましたが、統計分析を用いて戦略的に出店しました、という事業者様は1割にもいませんでした。

 

中には地域ごとの施設出店状況や、世代別人口統計、障害者数、手帳発行数などを調べ上げている事業所様もおりましたが、体感的な割合で言えば約5%程度です(5事業者/80事業者程度)。

※利用キャンセルにより9割稼働になってしまったというケースも、利用枠自体は埋まっているため100%稼働として定義します

 

しかし、統計分析は必要ないとしても、徒手空拳で開業することには、大きな不安があるかと存じますので、

本記事では立地選定の具体的な方法について記述いたします。

 

物件の選定について

「エリア戦略」よりも「物件ありき」で地域選定する事業所様が多いです(弊所主観)。

地の利(人脈、情報、馴染みの土地であるなど)を前提としたうえで

予算>外観・内観>立地(周辺環境、公共交通機関、関連事業所の中で都合の良いものをピックアップ)

として優先順位をつける事業者様が多かったです。

 

立地戦略の具体的手順

仮定

たとえば名古屋市昭和区に地の利があり、かつ良い条件の物件が見つかったとします。

(都市計画法、建築基準法、消防法は満たしている前提)

以下のような手順で目標契約者数を打ち出し、フィールドワークおよびウェブによる情報収集によって詳細を決めていきます。

 

STEP1.最大受け入れ人数を把握する

放課後等デイサービス 10名定員 × 27日=270回/月

ここで、半年~10ヵ月以内には、単月270回の上限に到達する、という目標を設定できます。

 

その他定員数の例
  • 児童発達支援⇒10名
  • 就労継続支援A型⇒10名、20名
  • 就労継続支援B型、就労移行支援⇒20名
  • グル―プホーム⇒4名
  • 生活介護⇒20名 等

 

 

STEP2. 1人あたりの平均利用回数を算定する

例:1人あたり週3回、月12回利用をアンカーとする。

※事業によって利用回数にバラつきがあるケースもあるため、仮定の数字を基準として設定します。

その他利用回数の参考値

あくまで例示である点にご留意ください。

  • 児童発達支援⇒1人週5回、月20回
  • 就労継続支援B型、就労移行支援⇒1人週5回、月20回
  • グル―プホーム⇒1人月30回
  • 生活介護⇒1人週5回、月20回 等

 

STEP3.目標契約者数を算出する

270回/月 ÷ 12回/1人平均 = 22.5名/1事業所あたり

※相談支援所で作成するサービス等利用計画、決定支給量等によって、実際の1人あたり利用回数は異なります

 

STEP4.目標契約者数の振れ幅を算出する

1人平均利用回数が8回だとした場合

270回 ÷ 8回/1人平均 = 33.7名/1事業所あたり

ここで270回の利用回数に達成するためには、昭和区およびその周辺エリアにおいて、半年~10ヵ月以内に、約23~33名の利用契約者数が必要、ということが明らかになります。

 

STEP5.立地調査

グーグルマップで「昭和区と周辺地域」を確認します(図参照)。

送迎を行う場合、片道30分圏内で抑えたいです(往復で1時間かかるため)。

検索した結果、名古屋市東区や港区まで、渋滞等加味しなければ片道20分程度で行けることが分かりました。

名古屋港水族館やレゴランド、東山動植物公園にも、気軽に行けそうな距離ですので、休日活動として候補にいれます。

 

※物件ありきで考えるため、既存事業所の所在地はあくまで参考情報として活用します。

  1. 「名古屋市 昭和区 放課後等デイサービス」などと入力すれば放課後等デイサービス事業所が検索されます。
  2. LITARICO(https://h-navi.jp/)の事業所検索機能を使って、詳細に事業所所在地を詰めることもできます。
  3. 障がい福祉サービスの場合は、ウェルネットなごや(http://www.kaigo-wel.city.nagoya.jp/view/wel/top/)、wamネット(http://www.wam.go.jp/shofukupub/)等でも事業所を検索します。

 

STEP6.サービス対象地域の設定

事業所所在地を調べた結果、名古屋市昭和区から南の方面に、事業所が少ない傾向が判明したとします。

※実態は一切反映していない点にご留意ください

結果、サービス対象地域を名古屋市昭和区、熱田区、南区、港区、天白区、緑区等として仮定します。

(基準上、対象地域外からの受入れも可能です)

 

STEP7.目標紹介者数の設定

このエリア内で、半年~10ヵ月以内に、23~33名の利用者を確保する作戦を考えていきます。

厳密に言えば、この辺り一帯にある相談支援事業所や社会福祉協議会等から、2利用者を集める方法を考えていきます。

放課後等デイサービス事業所を検索したとき同様に、グーグルマップ、検索等により相談機関の所在地を確認します。

リサーチの結果、相談機関が4事業所あると判明した場合は、1事業所あたり6名~8名の利用者さんをご紹介いただくという基本方針が策定できます。

※各事業所に相談員さんが2名ずついるなら、半年~10ヵ月以内に1相談員さんあたりから、利用者さんを3、4名ご紹介いただく、という発想まで落とし込むこともできます

 

補足1:開業前の事業体制構築

チラシ、名刺作成以外に開業前からできる活動を例示します

  • あらかじめ相談支援事業所等の所在地をリストアップしておき、適宜勉強会への参加、開業に向けた進捗報告とともに最新の地域情勢などを把握する
  • facebook、twitterなどSNSを活用した情報収集、発信(googleに自然検索で現れるには、継続的かつseoを意識した記事を発信し続ける作業を要します。成果が現れるめには通常3ヶ月程度の期間を要します)
  • 商工会議所、社長会等への参加(開業準備と会活動の時間配分が逆転しないよう注意すること)

 

補足2:問い合わせフローの逆転を図る

中長期的には「利用者希望者の方から事業所へ、直接相談を受ける」スキームを構築することが理想です。

相談員さん経由でしか問い合わせを受けられないと、相談案件が停止した時点で利用問い合わせも停止するリスクがあります。

事業所様主体で、新規顧客開拓能力を高めていくように努めてください。

こういうことです ↓

保護者 ⇒ 相談員 ⇒ 事業所への問い合わせ 

の流れから

保護者 ⇒ 事業所 ⇒ 相談支援所への問い合わせ

に変化させる。そのためには、潜在的利用者さんと直接的な接点を作っていくことが重要になります。

(snsの活用、事業所での勉強会開催、親の会での出張勉強会の開催、地域活動への参加など)

 

補足3.実行部隊の編成 ※30年9月26日追記

「誰が実行するべきか」の視点を、ご質問いただきましたので補足します。

①相談支援所等への訪問

可能な限り「社長+管理者/児発・サビ管」で行うことを推奨します。

一次情報に代表、役員相当の方々が直接触れたほうが、事業コンセプト設計に活かすことができます。

(その場の空気感、相手の様子、要点の背景などの暗黙知的情報など)

また、経験上、指導員として訪問するときと、管理者として訪問するときで、相手方担当者様、ヒアリングできる情報の中身も大きく異なりました。

代表ご自身が忙しいからといって、従業員の方々だけで訪問させるのは、時間帯効果で考えるとあまりお薦めできません。

 

②情報の発信

発信情報によって、担当は変わります。

  • 想い、コンセプト ⇒ 社長、管理者等
  • 日々の活動情報、ハウツーなど ⇒ 従業員

日々のお知らせや、ハウツー等のお役立ち情報レベルまで役職者以上の方が担うのは大変なので、スタッフの方々。

想いやコンセプトは、関わった当本人・関係者様方が直接発信したほうが、説得力、深みが違います。

この点はSNSでフォローさせていただいている事業者様を拝見して、つくづくそう感じます。

「時間が空いたら、コンテンツを発信しよう」と決めるのではなく、あらかじめ決まった時間に発信することを推奨します。

「毎週〇曜日、〇時に更新する」「情報発信のために、30分~45分は時間を確保すること」など。

「どうしても時間がとれないけど、自分自身の想いを発信したい」という社長様の場合は、要点だけスタッフに伝えてインタビュー記事を発信する方法もあります。

この場合は、ある程度中身について折り合いをつけなければなりません。

j弊所も以前、インタビュー記事を作成したこともあります。

よろしければご参考ください。

・就労移行支援事業所あるく 代表者様インタビュー

 

STEP8.事業コンセプトの仮定

ここで最も重要な工程である「自事業所が選ばれる理由=事業コンセプト」を検討していきます。

第1段階:インターネット検索を活用した、各事業所のレベル感の把握

情報発信の頻度、内容等を参考にして競合事業所、関連事業所のサービス内容、情報発信力を確かめます。

名古屋市が策定する「障がい福祉計画」も、該当サービスのみで構わないので是非チェックしてみてください。

相談支援事業所の絶対数が不足している、保育所等訪問支援の1以上の開設を目指すなど、実数に基づいた市独自の方針を打ち出しています

 

第2段階:相談支援所、区役所障害福祉課等への訪問、当事者、保護者会への参加による地域の実情、イベント、風土など情報収集をします。

可能な限り、現地を訪問することで得られる生の情報の収集を心掛けてください(他事業所の様子、地域活動の実施状況など)

※あからさまな営業活動というよりは、地域福祉の勉強、貢献を目的としてください

 

リサーチの結果、以下のことが分かったとします。

  • 既存の放デイ事業所がすでにどこも定員超過になっていて、受け入れ先がなくて困っている ⇒ 安全かつ柔軟な受け入れ体制の事業所
  • インターネットでの情報発信を積極的に活用している事業所が少ない ⇒ HP,SNS、ウェブツールを活用した専門性ある情報、事業所を見える化させるための情報発信の検討
  • 中高生の行き場がなくて困っている ⇒ 中高生が通うためには、どのような目的を設定するか?
  • 中重度の子を預かってくれる事業所がない ⇒ 経験者、資格者等に基づいた手厚い配置の検討
  • 身体障害の子を受けられる事業所が少ない ⇒ バリアフリー対応の事業所にできないか検討 等

 

STEP9.事業コンセプトの具体化

SWOT分析的に、4象限で現状を分析します(あくまで例示です)。

  • 強み:学習塾をずっと営んでいたため、児童に対する学習ノウハウを保有している。
  • 弱み:障がい児療育の分野には初めて参入する
  • 機会:小学生の身体障害(かつ軽度知的障害など)児の受入れをできる事業所が不足している。昭和区以南は、放デイ事業所の数自体が少ない。ウェブでの情報発信をしている事業所も手薄。関係構築できている事業所も少ない。
  • 脅威:近くに発達障がい児の就労支援に特化して地域からの信頼も厚い放課後等デイサービスがある

たとえば上記に基づいて戦略を検討した結果(クロスSWOT)、

「身体障害・軽度知的障害児に対する学習的支援を基軸として、他放デイや就労系事業所との連携による生活支援」というコンセプトを策定する。開業に向けた具体的行動として「あらかじめHP(もしくはブログ)を作成したうえで、昭和区以南の相談支援事業所、社会福祉協議会等を中心にあいさつに伺い、HP等の存在も必ず周知し、押し付けにならないようLINE@/メルマガでのお知らせ発行をしていいかどうか確認する。ブログコンテンツを書きためて自然検索での自社SEO対策を測る」などの戦略を立てることができます。

 

補足:不足する知識・ノウハウの補強方法について

障がい児に対する学習支援のノウハウがないため、この点は研修や療育本等により知識を習得していくか、採用活動で重点的に特別支援学校の教師等を確保するよう努めていきます。

補足:学習が先か、経験が先か?

弊所は学習を優先するべきだと考えております。学習で得るべき事項を経験によって得るのは時間のロスだからです。

事前学習で得た情報を、実務と照らし合わせてノウハウにしていくことが、障がい福祉事業の運営においては重要だからです。

教科書的に1ページ目から学習していくのではなく、関心の高い項目、必要度の高い項目から優先的に把握してください。

 

STEP10.事業コンセプトの修正・改善

「仮説 ⇒ 実行 ⇒ 検証 ⇒ 改善」を繰り返すことでコンセプトを修正・見直していきます。

闇雲になんでも試すのではなく、精度高くアセスメントを実行して、一定の期間、利用者さんを支援することで、計画を修正していくことがポイントになります。

 

補足:事業コンセプトの軌道修正について

障がい福祉事業であるため、学習支援そのものが目的ではなく、そこから先に待ち受ける本人の自立が目標である点を、必ず軸として抑えてください

利用対象者、コンセプトについては設定を絞り込みすぎると融通が効かなくなるため、あくまで軸を中心として、周辺領域までカバーできるように設定してください。

(身体障害児の支援が主軸ではあれども、その他軽度発達障がい児の学習支援、そこから先に待ち受ける本人の自立支援も行う、など)

 

事業者側の仮説だけでコンセプトを設計しても外す可能性が高いため、STEP8.事業コンセプトの設計、場合によってはSTEP6.地域の選定から見直してください。

 

以上となります。本工程は定期的に見直し、補強、修正を予定します。

 

 

ABOUT ME
吉川彰太郎
名古屋を日本一の福祉事業エリアにするべく活動する行政書士です。複数の放デイで2年半管理者・指導員として事業の立ち上げや管理、支援業務全般に関わっていました。 現在は障害者福祉関連の事業者様の運営、経営支援を中心に活動しています。 ICT活用による業務効率化、法制度を活用した事業展開について考えることが好きです。 【取り扱い業務】障害福祉の指定申請/届出/実地指導/農地・土地開発/その他事業許可の取得等
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