処遇改善加算

【令和5年度】処遇改善計画 作成方法【動画解説あり】

気になるところから読む

はじめに

介護・障害福祉処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算の導入方法についての解説です。

※障害福祉分野における届出の作成方法です

 

「よく分からないから算定を見送っています」

「返金指導などあるとこわいので、あえて算定していません」

という事業者様も多い加算ですが、御社スタッフの賃金や職場環境改善のきっかけとなる加算であるため、できれば算定いただきたい加算です。

 

場合によっては、かなり専門的判断を要することもありますが、それでもご依頼者様に最低限抑えていただきたい要素などもあるため、解説記事を作成した次第です。

 

ここまで解説する理由

「ここまで解説したら、仕事にならないのではないですか」と仰っていただける事業者様もおりますが、弊所としては(おそらく)問題ないものと考えております。」

 

当解説はあくまでモデルケースです。もちろん綺麗に当てはまる事業者様もいるかもしれませんが、やはり個別具体的な事情や単に学習コスト、書類作成の時間がとれず手間で委託したいと考えている事業者様もいるためです。

 

また、弊所としては外部事務所に丸投げで任せてしまうよりも、事業者様としてもきちんと要所要所のポイントを抑えたうえで、必要に応じて外部に委託するか自社で作成できるかの判断をできるようになったほうが、長い目で見れば事業者様のメリットになると考えております。

 

当解説の到達目標

  • 処遇改善加算、特定処遇改善加算を導入すること
  • 実地指導において思わぬ返金指導を受けないためのポイントを抑えること
  • 処遇改善加算、特定処遇改善加算の導入、運用方法を理解すること

 

ご了承事項

・1度で100%の理解を目指す必要はなく、もし関係なさそうな項目があれば飛ばしていただいて構いません。とりあえず分かるところ / できるところから着手して、不明点について当解説を読み直したり行政への確認などをとおして作成していくことをお薦めします。

・ここではあくまでオーソドックスな運用方法をもとに解説を進めます。

・したがって導入、運用にあたって特に重要な要素に絞って解説をしております

・行政によって必要書類や審査・運用基準は異なります。解釈が難しい場合は行政または弊所にご確認ください(一般事業者様はスポットコンサルティングでの対応となります)

・あくまで行政書士の見地からの解説です。社労士や税理士の観点からしたら、さらに抑えるべき論点があるかもしれませんので、必要に応じて顧問事務所様に確認とることを推奨します

・当解説は「はじめて処遇改善加算を導入する事業者様向け」の導入部分の解説です。具体的な書類の作成方法は、こちらの記事をご参考ください。

 

処遇改善加算とは

御社従業員の給与を改善するためにのみ使用できる加算です。

原則として、前年度の賃金総額(処遇改善加算での補助分のみ除外)から、さらに「加算+会社独自負担分」の給与上乗せを行うことが、運用の基本ルールです

必ず加算での改善に加えて、会社独自の負担(追加支出)も必要ですが、極端な話、1円でもいいから支出をする必要があります

例:処遇改善加算100万円受け取る ▶ 101万円、従業員に手当等として還元する

※処遇改善加算支給によって、社会保険料が増額する場合、会社負担分についても、処遇改善加算の支給実績に計上することができます。

 

詳細な運用・考え方は、御社の状況によって、若干異なります。

 

すでに稼働しており、処遇改善加算を算定している事業所の場合

前年度の賃金総額から、処遇改善加算を除いた金額を算出すること(前年度、実質の賃金総額)

前年度実質の賃金総額に、今年度の処遇改善加算+会社独自の負担を上乗せして、前年度よりも賃金水準を高めること

 

すでに稼働しており、処遇改善加算は算定していない事業所の場合

  • 前年度の賃金水準よりも、賃金を高めること
  • 前年度の賃金水準=手当や賞与を含んだ「賃金総額」をもとに考えること
  • つまり、元々支給していた手当や賞与を、処遇改善加算だった、とすることはできないこと
  • 例:もともと年収300万円だった人 ▶ 実は50万円分は処遇改善加算でした ▶ 実質の給与は250万円となる ▶ 給与水準が下がっているためアウトになる可能性が高い 等
  • シンプルに、もともと支給していた手当、賞与は減らさずに、さらに処遇改善加算で上乗せを行うことが望ましい

 

新規開設する事業所の場合

  • スタッフに配る手当や賞与に、処遇改善加算を充てることもできる
  • この場合、できる限り「処遇改善手当」「臨時手当」などと明記して支給することが望ましい(実績報告等を見据えて)
  • 処遇改善加算の使い道は、できれば特定の職員または職種で固定させたほうが、管理はしやすくなります

 

全共通で抑えていただきたい事項

  • 処遇改善加算でいくら入金が見込まれるからいくら支給するのか、できるだけ明確に定めることが望ましい
  • 会社の独自負担額▶元々支給していた手当、賞与は含まれない。今年度の賃金改善における(処遇改善加算+会社の独自の負担額)※この部分を指します

 

処遇改善加算を導入するメリット

○加算をつかって、職員の給与を改善できます

・提供事業や規模にもよりますが、1事業所あたり年間12ヶ月で100万円以上になることもあります。会社が自力で同じだけ自己負担で支給しようとすると、売上1000万円の利益率10%で100万円、と考えると、これを多少の手続き、取り組みで受け取れると考えると結構な加算だと考えます。

○スタッフスキルの向上に繋がります

・研修計画&評価、または資格取得計画を立てたり、運営会議を行うため、結果として支援スキル向上に繋がります。

○スタッフのモチベーション向上のきっかけになります

・昇進、昇給の基準が定められるためうまく運用すればモチベーションアップの起点になるかもしれません。

○職場環境の改善に繋がります

・加算の算定条件として職場環境の改善が必要になるため、結果的に働き方改革の起点になるかもしれません。

 

 

届出の提出期日

原則

毎年2月末までに提出。のち4月1日から算定開始。

例外1「制度・様式改定時」

毎年4月15日までに提出完了、4月1日から遡って算定開始

例外2「年度途中の算定」

月末までに提出完了。翌々月1日から算定開始(エリアによって異なる場合があります)

例外3「新規指定申請時」

  • 愛知県:指定月15日までに届出完了。1日から遡って算定開始。
  • 名古屋市・申請時に同時提出。開業月1日から算定開始。

実績報告「処遇改善加算の入金完了後2ヶ月後までに」

  1. 通常 … 対象年度の翌年7月末日まで
  2. 事業所閉鎖など … 最後に入金あった月の2ヶ月後まで

 

お薦めの処遇改善計画案

提供事業×稼働率で、およそ入金額が確定されるため、あらかじめ誰にいくら配るかを確定することをお薦めします。

(行政様式「処遇改善計画」の必要箇所を入力すれば、推測値を把握できます)

主な支給方法

  • 特定の職員で完結させて、他職員は会社自己負担でカバーをする
  • 金額のばらつきはあれども、各職員で分配する、など

 

実際のプランは事業者様によってケースバイケースですが、たとえばシンプルに設計すると以下のようになります。

令和4年度 福祉・介護職員処遇改善計画案

○処遇改善加算

・常勤の支援員○名に対する○ヶ月分の賞与:○万円×年2回×○名=計○○万円

・常勤の支援員○名に対する処遇改善手当 月○万円×○名×12ヶ月=計○○万円

・非常勤の支援員○名に対する処遇改善手当 月○万円×○名×12ヶ月=計○○万円

賃金改善見込額 計○○○万円/12ヶ月

○特定処遇改善加算

・サビ管 / 児発管 / 経験・技能のある職員に対する賞与の上乗せ:○万円×年2回×○名=計○○万円

・サビ管 / 児発管 / 経験・技能のある職員に対する(特定)処遇改善手当:月○万円×○名×12ヶ月=計○○万円

賃金改善見込額 計○○○万円/12ヶ月

○支給計画の留意事項

・当解説は、あくまで弊所としての見地からの解説です。行政や各士業事務所様の考え方方針によっては解釈が異なる可能性もあります(一応、実地指導などはクリア済の運用方法です)

・支給計画は事業所の業績、対象職員の増減等によって変動する可能性がある点に留意すること

・具体的な支給計画は賃金規程、キャリアパス表を基準としつつも、あくまで指標である点に留意して、実際の支給金額とは異なる可能性がある点に留意すること

・処遇改善加算の支給においては、法定福利費の増額分も支給実績としてカウントする可能性がある点に留意すること

○キャリアパス要件

  • 要件Ⅰ…就業規則、賃金規程の事業所内整備
  • 要件Ⅱ…資格取得計画の策定および実施(少なくとも1事業所年間1名は)&毎月の運営会議
  • 要件Ⅲ…資格取得または研修 / 勤務年数による昇進・昇給(人事評価を組み込まない)
  • 職場環境等要件…他産業からの幅広い採用の仕組み構築 / 有給休暇が取得しやすい環境整備 / 支援の好事例や、利用者等からの謝意などを共有するための機会提供 計3つ

○見える化要件について ※特定加算算定時、掲載必須

WAMネットへの、職場環境要件掲載。

○所感

あくまで例示ですが、このように設計すれば、おそらく実地指導で指摘されるリスクも低く、シンプルで管理しやすい運用になるかと存じます。

ただし、やはり大事になるのは御社の運用実態にきちんと馴染む設計にできるかどうか?で、この点について行政書士など専門家の助言を受けながらの設計が望ましいかもしれません。

 

【重要】実際の導入・運用にあたってやるべき作業のまとめ

「処遇改善加算の運用に必要なことを教えてください」とご相談いただくことが多いですので、導入前後で行うべき項目をまとめました。あくまで目安ですが、参考になれば幸いです。

 

【導入前】

あらかじめ整備必須な事項。全て事業所内に書面またはデータとして保管しておく必要があります。

キャリアパス要件Ⅰのクリア

  • 指定通知書の控え、就業規則、賃金規程、労働保険関係成立届出

キャリアパス要件Ⅱのクリア

  • 職員研修&評価計画または資格取得計画の策定(任意の様式。実行頻度も任意)
  • 職員研修&評価または資格取得計画の従業員周知(任意の様式を交付する)

キャリアパス要件Ⅲのクリア

  • キャリアパス表の整備(賃金規定の補足)

職場環境等要件のクリア

  • 職場環境等要件の選択(6項目のうち3つ以上)※特定加算

従業員(および利用者)周知

  • 従業員への処遇改善計画周知(原則常勤・非常勤職員への計画書の写し交付など。就業規則同様、代表1名を選任しての覚え書き作成または事務所内への計画書掲示など要行政相談)
  • 契約者(利用者・保護者)への処遇改善加算導入に関する同意書交付(推奨。重要事項説明書一部変更のお知らせなど)
  • 資格証、勤務形態一覧表の事業所内整備(特定処遇改善加算Ⅰ≒福祉専門職員配置等加算、居宅介護等における特定事業所加算の算定などで必須)

見える化要件のクリア

  • wamネットへの職場環境等要件の登録

【導入後】

届出を行ったあと、忘れずに行っていただく業務は以下のようなものがあります。

  • 請求ソフトへの登録
  • 賃金台帳作成(実績報告を見据えて、Excelデータ推奨)
  • 処遇改善加算のお知らせ取得(入金完了後。電子請求受付システムより取得可能)
  • 月1回の運営会議(支援スキル向上、ヒヤリハット、好支援事例・お礼の言葉共有など)
  • 各従業員の出勤記録(特に使用人兼役員は辞令や雇用契約書も合わせて)
  • 研修&評価または資格取得計画の実行(後者は該当する場合)
  • 福祉専門職員配置等加算の管理(特定加算Ⅰ算定の場合)
  • 計画に定めた支給計画の実施、支給額調整
  • 選択した職場環境等要件の年度内実行

 

 

処遇改善加算の導入・運用にあたって抑えるべきポイント

ここでは、処遇改善加算等を導入するにあたっての実務的に抑えていただきたい点についてまとめました。

○はじめての障害福祉事業なので、前年度の実績などないのですがどうしたらいいですか

・開業時の給与形態を基準に、年間の見込人件費を算出します。年間の報酬額も、あくまで予想の数値で問題ありません。

※あくまで「計画」であるため、見込の報酬額、人件費で1年間の経費を予想し、そこに処遇改善加算と自己負担額を上乗せするイメージです。

 

○はじめての障害福祉事業で、支給予定だった手当を処遇改善加算で賄うことはできますか。賞与などで還元することはできますか。

・可能です。できれば来年度以降も、同じ職員に対する還元で、運用を基本として運用していくことが望ましいです。

 

○事業はずっと運営していますが、処遇改善加算は算定していません

・前年度の賃金実績をもとに、今年度の処遇改善計画を組んでいくことになります。この場合、すでに支給していた手当、賞与を処遇改善加算に置き換えることは、実質的に従業員のもとの給与水準が低下することになるとみなされる可能性が高いため、非推奨です。

平成26年度以前の事業者様は、労使合意により自主的改善部分も処遇改善とみなすことが出来る旨の記載がありましたが、平成27年度以降の事業者様の場合は適用されない可能性が高いと考えます(平成27年厚生労働省QandA,問6)

 

○いくら入金されるのか?

毎月ごとに報酬総額×提供事業ごとに定められる○%で算出されます。したがって御社稼働率がよくなれば、比例して処遇改善加算での入金額も増えていきます。

例:放デイ月200万円×処遇改善加算Ⅰ:8.1%≒16万円/月

 

○受け取れない人と受け取れる人

【処遇改善加算を受け取れない人】

支援員に対する賃金改善であるため、管理職以上であったり、支援員じゃない職種の人に支給することはできません。

・法人代表者 / サビ管、児発管、サービス提供責任者 / 支援に入っていない役員 / 事務員など、支援に入ってない職員

【特定処遇改善加算を受け取れない人】

・支援に入っていない法人代表者

・特定加算の支給要件を満たしていない職員(細かな運用はあります)

【処遇改善加算を受け取れる人】

・支援員(役員、管理者兼支援員でも可)

【特定処遇改善加算を受け取れる人】

・サビ管、児発管、サ責、特定の資格をもったベテラン支援員等(細かな運用はありますが、サビ管、児発管への支給で完了させることが無難です)

 

○去年(または開業時の人件費見込)よりもスタッフ賃金を改善できていることが必要

・したがって、去年まで支給していた手当、賞与の代わりにしたり、開業当初の雇用契約に定めた手当、商用の代わり処遇改善加算を充てることは難しいです(専門的判断が必要なうえ、結局会社の負担額は変わらない可能性が高いため、非推奨です)

・比較対象となる前年度(または開業時)人件費について…もともと支給していた賞与や手当も含んだ賃金総額が比較対象になります(前年度・開業時見込よりも賃金水準を高めることが目的なため)。つまり、処遇改善加算は、会社の直接的な利益には一切ならない加算!

 

○処遇改善加算で受け取った報酬は全額、従業員に還元しきること

・設備投資や複利厚生での還元は認められません。必ず手当や賞与、社会保険料の増額部分などでの還元をする必要があります

 

例)処遇改善加算の見込額が年120万円の場合 / 給与改善200万円予定の場合

今年度スタッフ改善見込人件費1200万円 ― 前年度(または開業時見込)人件費1000万円

= 賃金改善額200万円 > 今年度処遇改善加算120万円 → 受け取った分を超えているので支給要件クリア

※120万円を超えた80万円が、会社独自の賃金改善額にあたります。

 

1円でも処遇改善加算の支給額を超えていれば良いため、社労士や税理士、給与計算担当者等の給与担当者との連携により、できるかぎり支給額ギリギリでの運用を目指す事業者様もいます。ただし、実地指導のチェックが厳しくなる可能性があるため、余裕をもたせた運用を推奨します。

 

○できる限りシンプルな運用に設計すること

・会社の利益にはならず、1事業所あたりで受け取れる額もおおよそ限度のある加算であるため、実績報告まで見据えて、できる限りシンプルな運用にすることが望ましいです(あまり書類作成に時間かかりすぎる設計にしないこと)。

パート・アルバイトスタッフの時給改善の場合、毎月だれにいくら支給したのかの計算が複雑になるため、やむを得ないとき以外は常勤職員の賃金改善を優先し、パートスタッフの時給改善は会社独自の賃金改善での運用が望ましいです。

 

○できる限り、1事業所ごとで完結させること

・法人全体で合算して、特定の職員に支給することもできなくはないです。ただし制度趣旨を鑑みると、できる限り各事業所で対象者を定めたほうが望ましいです

 

○できる限り、雇用されている従業員に支給すること

・役員でも、直接支援を行っているならば受け取れる余地があります。しかし制度趣旨をかんがみて、できる限り雇用されたスタッフへの支給が望ましいです。エリアによっては。役員層に支給できるのはいくらまで、と定められているエリアもあるようです。

 

○できる限り、決めた計画どおりに運用すること

・支給計画と実際の運用が大きく乖離してしまうと、実績報告のときに支給要件をクリアできず、思わぬ追加出費が発生するかもしれません。したがって、できる限り計画で定めたとおりの支給方法での運用が望ましいです。

 

よくある質問

○特に多く頂くご相談について

Q.実地指導での返金を防ぐためにはどうしたらいいですか

A.計画に定めたとおりに要件をクリアすること / 間違いなく受け取った金額以上に支給できていること(ギリギリだとやや△) / きちんと抑えるべきルールを理解していること、 が特に重要です。

当レクチャーでご説明した「実際の導入・運用にあたって抑えるべきポイント」は少なくとも把握いただくことが望ましいです。

Q.具体的な返金事例はありますか

A.幸い、弊所としての返金事例はありませんが、

 1.明らかに、代表者や専従管理者など、受け取れない人にまで支給している

 2,たとえば特定加算Ⅱの条件しか満たしていないのに、Ⅰで報酬を請求していた

 3.処遇改善加算を会社の利益としてプールしていたり、設備や研修受講など、間違った支給方法をしていることが明らかになったとき

は、明確に返金指導を受けることになると考えられます。

Q.社会保険料が増えてしまうため、賞与で還元するのは厳しいです

A.増えてしまう分の社会保険料については、処遇改善加算で賄うことができます。専門的判断を伴うため、具体的な計算は社労士や税理士、給与計算担当者様などに算出いただくことをお薦めします。

Q.処遇改善加算導入前に支払っていた賞与、手当を処遇改善加算だったことにしたいのですが

A.それでも支給要件(今年-前年>)をクリアできるならできる余地があるかもしれませんが、専門的な判断を伴ううえ、たいていの場合は満たさないため、弊所としては非推奨です。※「去年よりも賃金水準をあげること」が処遇改善加算の趣旨であるため

Q.「去年よりも賃金を高めること」…毎年賃金が上がってしまうということですか?いずれ賃金を払えなくなるかもしれませんが?

A.あくまで「処遇改善加算等(および独自の追加賃金改善額)を除外した」賃金水準との比較です。ざっくりいえば、仕組み上無限に賃金を上げ続けなければならない、ということにはなり得ませんのでご安心ください。

 

○書類の書き方について

Q.去年よりも事業所数が増えたため、前年度賃金も増えるのですか

A.既存の事業所 → 去年との比較。新規事業所 → 今年度の見込額との比較で計算します。したがって、法人合算で算定するよりも、各事業所で処遇改善加算を管理・運用することを弊所としてはお薦めいたします。

Q.賞与や手当は100%正確に予測する必要がありますか

A.計画につき、あくまで「見込」の額で構いません。逆に詳しく書かなくても受理、運用できてしまうこともありますが。事業者様として誰にいくら配っているのか把握していないと、実績報告で不要な手間や「配りすぎ(従業員的には良いことですが)」などが発生するかもしれません。

Q.前年度賃金額は100%正確に記載する必要がありますか

A.賃金台帳などをもとに正確に記載できるならば、それに超したことはありません。

Q.キャリアパス表はどれくらい作り込むべきですか。またサンプルはありますか

A.モデルケースとなる給与額、昇進のための条件(年数、資格、人事評価)などを抑えていただければ、事業者様の任意で構いません。1年に1回は見直しできると、より堅実です。

サンプルデータは、解説動画にてアップロードいたしますので、ご参考になれば幸いです。

Q.キャリアパス表はどれくらい賃金規程と連動させる必要がありますか

A.解釈が分かれそうな領域ではありますが、弊所としては就業規則、賃金規程はいじらずに、処遇改善加算周りのことだけキャリアパス表で管理することを推奨しています。

労働基準法上、追加作業が発生する可能性もありますので、顧問社労士などの関与がある場合、助言をもらうことをお薦めします。

 

○加算の配りかたについて

Q.必ず4月~翌年3月で完了しなければならないですか

A.たとえば1年の運用の場合、対象期間が12ヶ月で収まっていれば問題ありません。弊所としては、最遅で7月開始~翌年6月完了、でも受理されたことがあります。

ただし「従来の期間:4月~3月」から変更する場合は、処遇改善加算の二重計上とならないよう、必要に応じて行政へも確認のうえ慎重な運用が必要になります。

Q.必ず全員に配る必要がありますか

A.少なくとも制度的には任意の職員への支給でも問題ありません

Q.手当名は必ず「処遇改善手当」でなければダメですか

A.自由でも良いですが、最小負担で運用するためには「処遇改善手当」の記載が望ましいです

Q.法定労働時間を超えて働いた分の、残業代に充てることはできますか

A.割増賃金は、該当する場合必ず支給しなければならないため、処遇改善加算の対象ちはなりません。たとえばグループホームの場合などは「夜勤手当」を支給することはできる余地があります。

Q.その他には、対象外とされる手当があれば教えてください

A.兵庫県の高齢者介護の分野では以下のように例示されておりました。

  • 支援とは関係ない手当…通勤手当、住宅手当、家族手当、転居手当
  • 法律で計算が義務づけられている…時間外手当、深夜勤務手当、法定休日手当 等

※少なくとも障害分野については、エリアや行政によって解釈・運用が分かれることもあります

Q.計画に定めたほどの加算が見込めませんでした。手当等を減らしても大丈夫ですか。変更届出などは必要ですか。

A.手当や賞与額を減らすことは(従業員も了承済であれば)問題ありません。逆に、業績が良かった場合には入金額が増えるため、臨時手当を支給する必要があります。

Q.業績悪化により、逆に去年よりも人件費が減るかもしれない場合、どうしたら良いですか

A.特別な事情による届出を提出し、承認されれば去年より人件費を下げての運用も可能です。ただし、業績悪化についての証明をしなければならないため、新型コロナウイルスによる事業所の閉鎖など、相応の水準が要求されます。

 

○特定加算に関して

Q.特定加算について必ず年440万円または月8万円以上の賃金改善者を輩出しなければならないですか

A.その必要はありません。合理的な理由を選択するのみで、特に追加書類や審査にはじかれる、ということもありません。

Q.特定加算について、10年以上の経験のある職員がいませんがどうしたらいいですか

A.事業所の任意で再設定いただいても構いません。たとえば過去のキャリアも含めて3年以上、などと設定いただいても問題ありません。

 

○士業への依頼にあたって

Q.社労士や行政書士に依頼する判断基準を教えてください

A.これらの論点を学習して、書類作成・行政対応まで行う時間的余裕があるか?これらの論点を理解して、書類を作成できるスタッフがいるか?作成はできるにしても、時間給換算したら、いくらくらいのロスになりそうか?→事業運営には必須なものの、会社の直接的な利益にはなりにくい加算であるため。最小の時間コストで済ませられることが望ましいです。。

その他:業務上、どうしても労働基準法関連や税法関連のテーマに触れることもありますが、これらは税理士、社労士でしか業法上対応できない領域となります。弊所としては、一応の見解を示しつつも、該当するケースにあたったときは然るべき士業に助言を求めるよう案内しております。

Q.具体的な書類の作成方法が知りたいです

A.関連記事にレクチャーを添付しますので、ご参考になれば幸いです。

書類の作成風景、解説などを行っており、はじめて処遇改善加算を導入する事業者様も、ここでご紹介した整備書面を作成いただければ、あとの作業は同じです。

Q.書類のチェック、書き方相談に乗ってほしいのですが

A.スポットコンサルティングによって対応可能です。60~90分3.3万円+2週間のフォロー期間がついております。

 

用語の概要

実務を行うにあたって、最低限抑えておくと望ましい用語です。

(あくまで弊所概要での解説です)

 

用語 解説
処遇改善加算 主に前年よりも職員の賃金水準を向上するためだけに使える加算です。開業当初の場合は、当初想定していた雇用契約への上乗せが原則です
特定処遇改善加算 主にベテランの支援員やサビ管、児発管などの賃金上乗せのために使える加算です。比較的容易に算定できるため、弊所としては事業者様特段の理由がない限り、処遇改善加算と合わせて算定することをお薦めしています。以下「特定加算」と表記します。
経験、技能のある障害福祉人材 特定加算の主な支給対象者(上述したベテラン支援員、サビ管、児発管等)。たいてい特定加算予算はこの階層の職員のみで使い切ります。
福祉専門職員配置等加算 特定加算Ⅰを算定するために必要な加算です。居宅介護については特定事業所加算が、算定要件となります。

福祉専門職員配置等加算の解説はこちら

https://syoshikawa.com/hukushisenmonhaichi/

キャリアパス要件 以下Ⅰ~Ⅲの全てを満たすことでクリアできます
キャリアパス要件Ⅰ 就業規則、賃金規程を適正に整備すること(職務内容、職位・職責・賃金規程の明文化)
キャリアパス要件Ⅱ 資格取得計画、または定期的かつ計画的なスタッフ研修&評価計画、および月1回を目処としたスタッフの運営会議。従業員への周知が必要
キャリアパス要件Ⅲ Ⅰの補足。キャリアパス表などによって規定します(職員の昇進・昇給基準。勤務または経験年数、資格取得、人事評価など。いずれか1つ以上を規定すること)
キャリアパス表 弊所の場合、賃金規定の補足として整備を推奨しています。キャリアパス要件Ⅰ・Ⅲをクリアできます
支給要件 処遇改善加算180万円/年間だった場合…

今年度1200万円―前年度1000万円=200万円 → うけとった180万円以上に配りきっているのでOK

このように、「今年度賃金改善実績額-前年度(または当初見込み人件費額)」が、1円でも処遇改善加算で受け取る額を超えている必要があります。

 

職場環境等要件 処遇改善加算・特定加算を算定するために、定められた6カテゴリーの中から3つ以上、職場環境改善の取り組みを選択して、年度内に1回以上はその取り組みを実施する必要があります(特定加算の場合)
見える化要件 職場環境要件で定めたテーマを、たとえばwamネットなどにも公表する必要があります。
従業員周知要件 処遇改善計画は従業員に周知する必要があります。行政が細かく方法を指定することもあれば、事業者様の裁量で済むエリアもあります。

一般的には事務所の書庫に掲示をしたり、就業規則同様に、代表従業員に署名押印をもらうなどの方法が考えられます。

法定福利費の増額分 処遇改善加算の支給に伴って社会保険料が増加する場合、当該社会保険料の増額分(会社負担分)も、処遇改善加算によって賄うことができます。

たとえば処遇改善加算80万円を賞与として支給するときに、処遇80万円+社保会社負担分X万円、とするのではなく、処遇70万円+社保10万円=合計80万円で修めることができます。

概算率15%としつつも、計算式はやや複雑で毎年保険料率は変わるため社労士の助言を受けることを強くお薦めします。

※たいていは法定福利費の論点を気にせずとも、手当、賞与などで予算を使い切っているパターンが一般的です。

独自の賃金改善額 支給要件で解説した「200万円」部分が独自の賃金改善額です。開業当初に、事業者様が良かれと思って定めた、処遇改善加算導入前の手当や賞与は、専門的判断も必要ですが、独自の賃金改善というには難しいかもしれません
処遇改善加算実報告 処遇改善加算の入金完了後2ヶ月以内に、処遇改善加算を全て使い切った旨の処遇改善加算実績報告を作成、提出する必要があります。

およそ処遇改善加算を運用した翌年度の7月末が提出期限です。

概要はこちらにもまとめております。

https://syoshikawa.com/2021jissekihokoku/

全額返金 処遇改善加算の各種要件を満たしていなかったり、実績報告書の提出がない場合は。全額返金指導になる恐れがありますので、ご注意ください。

 

 

処遇改善加算のまとめ

処遇改善加算、特定処遇改善加算の導入にあたって重要な論点をまとめました。

会社の直接的な利益にはなりませんが、従業員の給与を補填できるため、会社負担の軽減、従業員の定着率改善、職場環境改善の観点などからは導入必須な制度だと考えます。

 

どのルートを経由して加算を算定するかで若干必要な取り組みも異なってきます。したがって、弊所としては事業者様がたの負担を減らす意味でも最小労力、普通リターンによる堅実かつ明確な運用をお薦めしております。

 

当解説が貴社事業運営の参考になれば幸いです。

 

動画解説「令和5年度処遇改善計画」

処遇改善計画の策定、作成方法を動画で解説しております。

文字だけだと分かりにくい方のご参考になりましたら幸いです。

障がい福祉事業者様はもちろん、行政書士、社労士の方々にご活用いただいても大丈夫です。

https://school.syoshikawa.com/p/r4shogukeikaku

※指定権者によって詳細な運用が異なる場合がありますので、あくまで活用は自己責任にてお願いします。

関連記事

特定処遇改善加算

https://syoshikawa.com/tokuteishogu/

参考記事

兵庫県(介護保険) 加算取得に際して事業所・施設で行うべきこと(2018年)

https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf27/documents/201803tebiki2-4.pdf

厚生労働省 平成27年 障害福祉サービス報酬改定QandA,vol2,問6

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000084784.pdf

中央法規 障害福祉サービス事業者ハンドブック2021「報酬編」

Wamネット 介護職員処遇改善加算について

https://www.wam.go.jp/wamappl/19YAMANA/19bb01kj.nsf/fb86ad5d31e4d3fe492568200025beba/3d4496aeb2bc3eea492582b20008c884/$FILE/H30%E5%85%B1%E9%80%9A%E4%BA%8B%E9%A0%85-4%EF%BC%88%E5%87%A6%E9%81%87%E6%94%B9%E5%96%84%EF%BC%89.pdf

 

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