特定処遇改善加算に関する内容をまとめてみました。
導入の可否判断の参考になれば幸いです。
★参考資料
本稿については、以下の記事を参考にしています。
・福祉・介護職員等特定処遇改善加算に関する基本的考え方 並びに事務処理手順及び様式例の提示について(厚生労働省通知)
気になるところから読む
特定処遇改善加算のまとめ
特定処遇改善加算とは
- 現行の処遇改善加算 ⇒ 「現行加算」といいます
- 10月からの加算 ⇒ 「特定加算」といいます。
所定の条件を満たすことで、「現行加算」とは別途、「特定加算」を算定できるようになります。
考えられるメリット
純粋に、算定率のみ確認すると「これだけしか支給されないんですか?」となるかもしれません。
それでも、できることなら算定をお薦めします。
メリット1 しっかりしている事業所であると、対外的に伝えることができる
見える化要件として、職場環境等要件に定めた事項を対外的に公表する必要があります(主にWAMネットなど)
「算定できるだけの知見がある=コンプライアンスの整った事業所である」、ということもできるかもしれません。
この点、相談員や利用検討者、求職者に対しても安心感を覚えていただくことができるものと考えております。
メリット2 管理者やサービス管理責任者にも、手当を支給できる
特定処遇改善加算の一番の特徴です。
たとえば手当の上乗せをすることにより、待遇を改善することができます。
一切処遇改善加算を受け取れないことと、いくばくかでも受け取ることができるのとでは、対象者のモチベーションにも違いがでるかもしれません。
メリット3 事業の運営体制について見直すことができる
誰がどのくらいのスキルがあるのか(10年級の職員であるのか)など、今一度見直すことができます。
対外的にも処遇改善の取り組みを発信する必要があるため、意識改革にもつながります。
加算をとること以上に、本加算の算定を機にあらためて事業体制を見直し、サービスの質の向上につなげていくことが、本加算の趣旨だと弊所は考えております。
特定加算の仕組み
1カ月あたりの(基本単価+加算・減算)×算定率によって、見込み入金額を把握することができます
計算例)
放課後等デイサービスの場合…
総単位数(例示)20万単位 × 地域区分10円 × 0.7%(特定加算Ⅰ型)= 14,000円/月
例)就労継続支援A型の場合…
総単位数(例示)20万単位 × 地域区分10円 × 0.4%(特定加算Ⅰ型)= 8,000円/月
※Ⅰ型、Ⅱ型の違いは後述します
加算率の参考
訪問系事業の算定率が高く、放課後等デイサービスの算定率はⅠ型でもやや低い傾向にあります。
図:加算算定対象サービス(通知p.13)
賃金改善の実施方法
基本給、手当、賞与等での改善であり、この点は現行の処遇改善加算と変わりません。
改善額の判定方法
「特定加算」を算定したときの見込み改善額と、「現行の加算」を算定した状態との差額で、いくら改善されたのかを計算します。
処遇改善加算がすでに導入された状態から、上乗せでいくら改善できるのか?を計画づけるイメージです。
読み飛ばしてもかまいません。
職員が増えている場合は、その職員が過去の時点から配置されていたものとして、人件費を行います。
例)
現在の年間人件費 ⇒ 1200万円/年@従業員4名
過去の年間人件費 ⇒ 1000万円/年@従業員3名
⇒180万円/年+改善額20万円のパート職員がいたものとして、
過去の年間人件費 ⇒ 1180万円/年@従業員4名
としてベースとなる人件費が算出されます。
賃金改善の対象となるグループとは
「現行の加算」では対象外である、管理者、児発管、事務員なども対象となることが「特定加算」の特徴です。
以下に示すグループごとに、支給できる額が定められます。
「経験・技能のある職員」
今回の主な処遇改善対象者です。
以下の資格者のうち、過去の職歴をふまえたうえで10年以上の職員が対象となります。
- 支援員のうち、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、保育士資格保有者
- 心理指導担当職員(公認心理士を含む)
- サービス管理責任者
- 児童発達支援管理責任者
- サービス提供責任者
ただし、以下のような記述によって、事業所による裁量判断の余地も残されています。
勤続年数10年以上の職員を基本としつつ、所属する法人における経験や、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能をふまえ、各事業所の裁量で設定することとする(p.3(3)福祉・介護職員等特定処遇改善計画書の作成 引用)
「他の障害福祉人材」
10年以上の介護・福祉経験のない、施設において最もボリュームゾーンの職員です。
資格要件自体は、「技能・経験者」と同じで、10年の経験があるかどうか?が違いとなります。
- 支援員のうち、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、保育士資格保有者
- 心理指導担当職員(公認心理士を含む)
- サービス管理責任者
- 児童発達支援管理責任者
- サービス提供責任者
※詳細は後述します
「その他の職種」
上記に示された以外の職員全般を指します。
管理者、事務員、送迎員など
補足:「支援員」の対象範囲
ホームヘルパー、生活支援員、児童指導員、指導員、保育士、障害福祉サービス経験者、世話人、職業指導員、地域移行支援員、就労支援員、訪問支援員
【重要ポイント】変更特例の解説
上記グループ分けは、厳格な縛りが設定されているわけではありません。
「変更特例」を適用することができれば、グループをランクアップできます。
- 例:通常の福祉人材 ⇒ 技能・経験者(10年級の福祉人材)として、特定加算を支給できる
- 例2:その他の職員 ⇒ 通常の福祉人材として、特定加算を支給できる
①所定の資格・研修修了者が10年以上の経験を有する場合
以下の研修修了者は「経験・技能者」として扱えるようになります。
その他にも、事業所独自の規定により10年級職員とすることもできますが、自治体との協議が求められます。
所定の職員が、専門的な技能によってサービスの質の向上に貢献していると認められる場合
「他の障害福祉人材」にランクアップすることができます。
その他にも、事業所独自の規定により10年級職員とすることもできますが、自治体との協議が求められます。
※すでに年収440万円を超えた職員については、ランクアップ不可
事業所における、特定処遇改善加算の配分方法
以下のルールにもとづいて、特定加算を支給します。
ルールの簡単なまとめ
平均賃金の改善額は、各ランクの2倍以上、と抑えてください。
経験・技能者福祉職員 > 通常の福祉職員×2
通常の福祉職員 > その他の職員×2
条件a
1人以上は、月額平均8万円以上 / 年額440万円以上の賃金改善を行うこと
ただし、以下のような合理的な理由があれば、本条件を回避できる余地があります。
- 小規模事業所で加算額全体が少額である場合
- 職員全体の賃金水準が低く、ただちに1人以上の賃金を引き上げることができない場合
- 8万円等の賃金改善を行うにあたって、これまで以上のキャリアパス規定等の作成が必要にあるため、規定や研修、実務経験の蓄積などに一定の期間(※要役所との協議等)を要する場合
条件b
「経験・技能者」の賃金改善に要する費用の見込み額が「他の障害福祉人材」の賃金改善額の2倍以上であること
例)「他の障害福祉人材」の年間賃金改善額30万円 ⇒ 「経験・技能者」の年間賃金改善額60万円以上
条件c
「他の障害福祉人材」の賃金改善に要する費用の見込み額が「その他の職種」の賃金改善額の2倍以上であること
例)「その他の職種」の年間賃金改善額15万円 ⇒ 「他の障害福祉人材」の年間賃金改善額30万円以上
条件d
その他の職種の賃金改善後年収が440万円上回らないこと(すでに超過している職員は、超過分を賃金改善実績に計上できない)
賃金改善計画について
現行の加算と同じく、処遇改善加算導入前よりも、賃金総額が下がらないようにしなければなりません。
- 特定処遇改善加算を導入する前よりも、導入後のほうが、改善賃金額が増加していること
- 本加算導入前よりも、各グループの賃金改善額の合計が上回っていること
たとえば、処遇改善加算によって手当額を改善しても、賞与の支給額を大幅に下げた場合は、年間でみると賃金総額が前年水準よりも下がっている可能性があります。
この場合は、賃金改善額が前年度を下回る可能性があります。
賃金改善の実施期間について
毎年4月~翌年3月末までが原則です。
そして7月末日までに実績報告届を提出する流れとなります。
賃金改善方法について
「経験・技能のある障害福祉人材」の基準となる考え方を記載すること
〇 認められた例)
- 他社を含めて通算10年以上の介護・障がい福祉経験のある職業指導員/児童指導員
- 介護・福祉に関する資格、5年以上の実務経験を有し、相談支援従事者初任者研修・サービス管理責任者基礎研修の受講を完了したサービス管理責任者
- 弊社で最も勤続年数の長い実務経験7年の職員を経験・技能のある職員として定義する 等
× 認められなかった例)
- 役員として経営業務に取り組んでいる勤続年数1年の指導員(あくまで介護・福祉業界の経験者の待遇改善が趣旨なため。通常の福祉人材として特定加算の対象に含めることは可)
理由によっては変更特例の添付を求められる可能性があります。
心配であれば担当行政に確認することをお薦めします。
賃金改善以外の要件
特定加算を算定するためには、以下の要件をクリアする必要があります。
要件「福祉専門職員等配置」(加算Ⅰをとるための条件)
福祉専門職員配置等加算を算定していることが、要件の1つになります。
現行加算要件
現行の処遇改善加算ⅠからⅢのいずれかを算定していること
職場環境等要件
職場環境要件について、「資質向上、労働環境・処遇改善、その他」いずれも1つ以上実施すること
過去の取り組みについて、従業員に周知していること
見える化要件
特定加算にもとづく取り組みを、WAMネット、ホームページ等に公開していること(2020年より)
特定加算Ⅰ・Ⅱとは
加算Ⅱよりも、1のほうが算定率は高いです。
- Ⅰを算定するためには ⇒ 配置等要件(福祉専門職員配置等加算)、現行加算要件、職場環境等要件、見える化要件のすべてを満たすこと
- Ⅰを算定するためには ⇒ 現行加算要件、職場環境等要件、見える化要件のすべてを満たすこと
実績報告について
現行の処遇改善加算同様に、7月末までに報告届を提出すること。
報告届の作成を円滑にするためには、日々の事業運営をとおして、以下の記録することをおすすめします。
- 平均8万円/月もしくは年収440万円に満たない場合、その理由
- 改善後の賃金額がもっとも高額となった者の賃金額
- 職員に支給した賃金の総額
- 毎月ごとの支給対象となる職員の常勤換算数
特定加算の周知・確認等について
現行の処遇改善加算と同じく、事務所内への掲示や職員への賃金改善計画について、職員に周知を行うこと
よくある質問
独自の賃金改善額ってなんですか? ※2020年10月追記
はじめて処遇改善加算を導入した年度以降について、あらたに支給した手当、賞与、昇給などで、処遇改善加算の支給額を上回った分を指します。
例:前年度について、100万円の処遇改善加算に対して、会社が20万円上乗せして120万円の賃金改善を行った。→この20万円部分のことを指します
年度途中から処遇改善加算を導入しますが、前年度賃金は何か月分で計算するべきですか?
12カ月分の賃金を推定して、記入します。
なお、前年度賃金額はこれまで同様、手当や賞与も含んだ金額を記載します。
特定加算ってなんですか?
特定処遇改善加算のことを略して特定加算というのが行政の主流のようです。
処遇改善特別加算とは違いますか?
別の加算になります。
かなり要約すれば、特別加算は処遇改善加算を導入できない事業者が特例的に算定する加算なため入金額も極めて低いです。
勤続年数10年以上の職員がいなければダメか?
- 現行の処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定していること
- 職場環境等要件について、複数の取り組みを実施していること
- 処遇改善の取り組みについて、ホームページ等へ掲載していること
これらが、算定要件であるため、10年以上の介護福祉士等がいなくても算定の余地があります。
既存の職場環境改善に取り組んでいる場合、新しい取り組みも必要か
資質向上、労働環境・処遇改善、その他すべての要素を満たす必要はありますが、すでに取り組んでいる要素について、さらに新たな取り組みまで行う必要はありません。
必ずWAMネットによる情報公開が必要か
ホームページへの掲載をもって、要件クリアとすることもできます。
- 特定処遇改善加算の取得状況
- 賃金改善以外の、処遇改善加算に関する具体的な取り組み内容(職場環境改善など)
を公表する必要があります
「勤続年数10年以上」における事業所の裁量判断とは
同一法人での10年勤続だけでなく、他法人や医療機関等での経験も含められる
事業所で導入されている能力評価制度や、等級システムによって、10年以上の勤続年数を有しないものであっても業務や技能等によって、対象とできる
「勤続年数10年以上」の職員がいない場合、わざわざスタッフの確保は必要か
必要ない。「勤続年数10年以上に相当する」と認められる職員を「経験・技能職員グループ」に設定して、処遇改善を行うこともできる。
ただし、処遇改善計画書および実績報告書に「勤続年数10年以上に相当する理由」を、具合的に記載すること。
「どのような職員が勤続年数10年以上に相当する」と認められるかは、労使による協議で決定すること。
厚生労働省が想定する職種は上述しておりますので、そちらをご参照ください。
月額8万円の改善とは、現行の処遇改善加算を含んでの改善なのか
現行の処遇改善とは別に、月額8万円の改善をすること。
440万円/円、月額8万円の改善に関する、賃金範囲はどこまでか
どちらのルートで処遇改善加算を支給するかによって、異なります。
- 月額8万円の改善ルート ⇒ 法定福利費の増加分も含むことができる
- 年440万円の改善ルート ⇒ 法定福利費の増加分は含められない
「その他の職種」の440万円について、どこまでの範囲を賃金に含めるのか
手当を含むことはできるが、法定福利費の増加分を含めることはできない。
「その他の職種」の440万円の基準について、非常勤職員の給与の計算はどのように行うべきか
常勤換算方法で、計算すること。
例:0.5人で〇〇万円の改善 等
令和元年は10月からの算定であるため、440万円以上とすることは難しいのではないか
12カ月間、加算を算定していれば440万円以上となることが見込まれる場合は、要件を満たすもの、とすることができる。
年収440万円もしくは月8万円の改善が難しい場合は?
- 加算額がそもそも少ない
- 他スタッフを引き上げるほどの予算がとれない
- 大幅な組織体制の変更が必要となる
このような場合は、計画書にその旨を記述することで、年収、月収要件を回避することができます
(福祉・介護職員等特定処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について)には、この点以下のように定められています。
- 小規模事業所等で加算額全体が少額である場合
- 職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げる
ことが困難な場合 - 8万円等の賃金改善を行うに当たり、これまで以上に事業所内の階層・役
職やそのための能力・処遇を明確化することが必要になるため、規程の整備
や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合
非常勤職員の給与計算方法について
常勤換算で計算し、賃金額を判断すること
例)年間賃金100万円 / 0.6人
小規模事業所であるため、特定加算の導入に時間がかかることが予想される。この場合の「一定期間」とは
「一定期間」を国として一律の基準で定めることはしない
(管轄行政との協議による、ということです)
各グループにおける対象人数について
- 「技能・経験者」⇒常勤換算数による算出を行う
- 「その他の障害福祉人材」⇒常勤換算数による算出を行う
- 「その他の職種」⇒常勤換算、実人数、どちらの算出もできる
平均賃金改善額について、職員はどこまで対象となるのか
賃金改善を行う職員、行わない職員すべて対象となる
実績報告における積算根拠書類について
実地指導で提出を求められた際に、すみやかに提出できるように整備すること。
届け出・報告書提出の段階で、各賃金における明細書や計算根拠書類の提出までは求めていない。
変更特例について「当該特例の趣旨に沿わない計画については、詳細な説明を求めることとする」とあるが、具体的にどのような計画のことを指すのか
特定加算の趣旨とは
- 経験・技能のある職員の重点的な処遇改善
- 障害福祉人材のさらなる処遇改善
- 趣旨を損なわない程度の柔軟な運用
のために創設されたものである。
したがって「当該趣旨に沿わない計画」とは
- 技能・経験をふまえず、特定の職種にたいして一律で変更特例を行うような場合
- 技能・経験をふまえず、特定の雇用形態にたいして一律で変更特例を行うような場合
を指す。
例)保育士は一律で〇万円の改善、常勤職員は一律で〇万円の改善、など
特定のグループにたいして、賃金改善をしすぎてしまい、配分ルールを満たせなくなった場合の取り扱い
配分ルールを満たすように、賃金改善額から超過した分を除くことができる
例)
技能・経験者:100万円の賃金改善
その他の介護福祉人材:80万円の賃金改善
⇒本来なら2倍ルールにより50万円までしか改善できない
⇒ 超過した30万円は、計算から除外する 等
法人単位で計画書の提出ができるとのことだが、事業所ごとに賃金改善が加算額を超えなければならないのか
そうしたほうが望ましいものの、法人単位で賃金改善額が、処遇改善加算入金額を超えていれば足りるものとする。
(事業所aだけでは条件を満たせないが、全事業所合計でみれば、加算の条件をクリアできていた場合など)
法人でまとめて算定、のち各事業所に自由に配分することはできるか
不可。
1事業所につき、1人以上は本加算の要件に該当する職員を配置しなければならない。
よくある質問について続きを作成いたしました。
よろしければこちらもご参考ください。
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